『宇宙空母ブルーノア』を支えた3つの神器(文/岩佐陽一)
『宇宙空母ブルーノア』は、空前の『宇宙戦艦ヤマト』ブームが続く渦中に、同作スタッフが『宇宙戦艦ヤマト』の次の新しい試みとして企画され、『ヤマト』シリーズを創出したアカデミー製作(当時)が製作。同社の代表取締役社長で『宇宙戦艦ヤマト』の生みの親、西﨑義展が企画・原案・製作を手がけ、陣頭指揮を執った意欲作。その魅力を昭和の特撮・アニメなどエンタメに精通する、なつかしテレビ専門ライター兼特殊映像プロデューサーの岩佐陽一さんに解説していただきました。本編をより楽しむためにこちらも必読です!
目次
1979年当時としては驚異のグッズ・アイテムのラインナップ!
『宇宙戦艦ヤマト』シリーズが日本のアニメーション界にもたらした革命のひとつに、〝アニメーションのビジネススタイルの確立〟がある。以後、日本の、特にTVアニメーションは『ヤマト』のビジネス・ノウハウを踏襲することとなった(もちろん例外はある)。
そのひとつが〝関連グッズの種類充実〟だった。それ以前、〝テレビまんが〟と呼ばれ実写(特撮)作品ともいっしょくたにされていた日本のTVアニメの関連グッズ類はお菓子に文具、そしてフィギュア、プラモデルだった。原作があれば原作の単行本の増刷となるが、TVオリジナルであればのちに〝コミカライズ〟と呼ばれることになるTVの漫画化がなされ、ヒットすれば単行本化されるという流れだった。
そこを『ヤマト』はグッと対象年齢を上げ、メイキング資料や関係者インタビュー等のいわゆる〝ビハインド〟を掲載したムック・書籍類、そして劇中音楽を収録したサウンドトラック盤、果ては〝交響組曲〟と銘打たれた格調高いスペシャル盤まで発売されるに至った。これは何を意味していたのか?〝アニメーション〟が〝大人向けの一般大衆娯楽〟になり得る事実を立証したのだ。『ヤマト』の大ヒットにより、子どもたちだけの駄菓子・お子様ランチ扱いだったアニメーションが、ついに市民権を獲得した。
『ヤマト』を踏襲しつつ、それを凌駕する勢いで開発された本作『宇宙空母ブルーノア』のグッズ・アイテム類の充実っぷりは約半年、2クール=24話(初回放送は2時間スペシャル)とは思えぬほど壮観だ。
まず『ヤマト』もスポンサーしていた野村トーイから「宇宙空母ブルーノア 合体DX(デラックス)」と銘打った高額の合金玩具が発売された。当時はまだ他社(ポピー)の「超合金」等の合金玩具が主流であり、これが本作の主力商品となった。今回はプラモも自社で権利を獲り、ブルーノアが発売された(バンダイからもブルーノア、艦載戦闘機、戦闘ヘリ・バイソンのプラモが発売され、競作となった点が面白い)。同時にソフビ人形と呼ばれるソフトビニール製のフィギュア(現在、主人公の真が確認されている)や、消しゴムフィギュア(ブルーノアやシイラ等)等、当時思いつく限りの種類の玩具が一気に発売された。また、食品メーカーの江崎グリコからチョコクッキーやペロティチョコ、フーセンガム等が発売。チョコクッキーではあたり券が出ると「クルクルムービー」という手動の動画鑑賞機がもらえるプレゼントもあり、お菓子面にもかなりの力が入っていた。ショウワノートからは「しょうちゃんシリーズ」ブランドとして学習ノートにぬりえ、スケッチブック等が。書籍関係ではひかりのくにより幼児向けの絵本、集英社のコバルト文庫よりノベライズも上下巻で発売された。
そして『ヤマト』の成功を継承したのが音楽 = 音盤関係だった。まず主題歌は、当時のナンバーワンアイドルでのちに俳優/ミュージカルスターとして活躍することになる川﨑麻世が歌唱。作曲をロカビリー歌手から作曲家に転向した大ヒットメーカー・平尾昌晃が担当。通称劇伴 = BGMと呼ばれる劇中音楽を『ヤマト』の宮川泰が手がけるという、信じられないような豪華布陣だった。CBS・ソニーレコード(現・ソニー・ミュージックエンタテインメント)より川﨑の歌う主題歌・副主題歌(エンディング)のシングルレコードが。宮川が作・編曲したBGMと主題歌2曲を収録したサウンドトラックアルバム(LPレコード)がそれぞれ発売され、放送スタート直後からすでに本作の音楽世界を自宅で堪能できるようになった。
とにかくリアルタイムで観ていた我々視聴者の目には、『ブルーノア』は非常に恵まれた作品に映った。だが、人は贅沢なもので、満腹時には食欲をそそられない。飢えを感じて初めて食べ物や水が欲しくなる。どうもそれと同じことが『ブルーノア』のグッズ・アイテム展開に起こったようだ。最初から潤沢過ぎてしまった。結果、当時は想定したほどは売れず、45年を経た今現在、プレミアムが付くという皮肉な結果を招いてしまっている。だが、グッズ・アイテムの当時の売り上げの伸び悩みについては次章で説明する点にも一因があるようには思う。
『愛と青春の旅だち』、『トップガン』を先取り!? さらに『海底二万里』の後継者?
『宇宙戦艦ヤマト』が戦後(決して戦意高揚映画ではないので戦前〜戦中の作品には当該しない)〜1970年代中盤の和製戦争・戦記映画の未来SF版だとすると、『宇宙空母ブルーノア』は、‵80年代〜‵90年代中盤のハリウッド(海外)製戦争・ミリタリー青春映画の近未来SF版といえよう。『愛と青春の旅だち』(‵82年)や『フルメタル・ジャケット』(‵87年)、さらに2022年に36年ぶりに続編が公開され、日本でも大ヒットした『トップガン』(‵86年)といったハリウッド洋画を先取りした印象だ。実際、『ブルーノア』の時代設定は2052年と『ヤマト』の2199年よりは遥かに現代に近く、登場するメカニックも現実の米軍をはじめ世界各国の軍隊が所有する空母や艦載機、軍用ヘリコプター、潜水艦に準拠したものが多い。それは敵軍で異星人であるゴドム側にも共通していた。驚くべきはこの時点で無人偵察機 = ドローンや対空用バルカン砲等が登場していたことだろう。
そこで描かれる人間もようも、『ヤマト』では一部例外はあるとはいえ、基本的には戦闘(バトル)時における人間関係や人間ドラマがメインに描かれていたのに対し、『ブルーノア』では戦争という特殊な状況は同じだが、非戦闘時の人間ドラマにも時間が割かれ、より等身大の若者/人間像が描かれることとなった。この点においても敵・ゴドム軍も共通で、将校同士の確執や権謀術数等が子ども向けのTVアニメーションとは思えぬほどに丹念に描かれた。好敵手ともいうべきユルゲンスは途中で左遷されるというリアルな描写がなされ、子ども心にも〝この番組は大人向きだな……〟と、感じたものだ。
そこにもうひとつ、〝海洋冒険ロマン〟という要素が加わった。海洋冒険ロマン自体はエンターテインメントの一角をなすジャンルであり、古くは海外では『海底二万里』(1870年)や『洋上都市』(1871年)等で知られるジュール・ヴェルヌ、日本では押川春浪や海野十三らいわゆるSF作家たちが有名で、作品もいくつか映像化されている。もともと海を愛し、クルージングが趣味だった西﨑義展プロデューサーの嗜好が『ヤマト』以上に前面に出された。田中光二のSF海洋冒険小説『わが赴くは蒼き大地』(‵74年)をベースにスタートしており、発端からして宇宙ではなく海を舞台に設定が練られた。『ヤマト』の大ヒットにより、スポンサーサイドを筆頭に各関連媒体が西﨑Pに〝宇宙もの〟を期待していた状況は容易に想像がつき、結果〝宇宙空母〟になったものと推測される。だが、科学ライターの金子隆一がSF考証を担当したことで、(当時の)現実の科学に近い設定、リアルな世界観となった。その分、メカニックも含めてビジュアル面ではかなり地味になった印象を受ける。『ヤマト』的な派手さやアクの強さがなくなり、この事もグッズ・アイテムの売り上げが伸び悩んだ一因にはなっていよう。
今現在は宇宙SFではなく、むしろSF海洋冒険ロマン/架空戦記アニメーションの先駆けとして本作を再評価する向きも多い。
今回の放送及び配信でもぜひ、その観点からもご覧いただきたい。
1979年当時の人気声優スターが大集結!
イントロダクションでも述べたとおり、本作の声優陣は豪華だ。豪華という言葉が当時的には妥当でなければ、主役級の声優ばかりが顔を揃えている。主人公・日下真役の古谷徹は当時『機動戦士ガンダム』の主人公、アムロ・レイ役と掛け持ちで出演。そして近年は『名探偵コナン』の潜入捜査官バーボンこと安室透役で何度目かのブレイク中という当代きっての大人気声優だ。ヒロインの土門慶役の川島千代子は、残念ながら声優業は引退されたが、当時は、2024年にリメイク新作が公開される『UFOロボ グレンダイザー』(‵75年)のヒロイン・牧葉ひかる役で本格デビューして以来、清楚系ヒロインの演じ手として人気を博していた。ブルーノア側のドメニコとラスボスのザイテル二役を演じた古川登志夫は『未来ロボ ダルタニアス』の主役と『機動戦士ガンダム』のカイ・シデン役と並行出演し、特にザイテル役にファンは驚いた。
土門鋭役の柴田秀勝は『タイガーマスク』(‵69年)の悪役・ミスターXを演じて以来、印象的な悪役や博士役が多かったが、本作終了から2年後の『魔境伝説アクロバンチ』では父親役でありながら主人公でもある蘭堂タツヤ役を演じ、主役を演じるケースが増えていく。そして、ユルゲンス役の井上真樹夫にもファンは驚いた。井上のヒール自体は珍しくはなかったが、当時はキャプテンハーロック役が当たり役となり、本作スタートの少し前に公開された映画『銀河鉄道999(‵79)』でも同役を演じて女性ファンたちのハートをわしづかみにしていた。その井上が、単なる悪役ではないとはいえ、敵役でレギュラー出演したことでアニメファンは大いにわいた。
だが、いちばんのトピックスは味方と敵で清水忠治/ガルフ総督・二役を演じた名優、伊武雅刀(当時は伊武雅之)だろう。『ヤマト』ではある意味、主人公である古代進以上の人気を誇る名好敵手・デスラー総統を演じ続けていたが、その彼が敵役と兼任とはいえ180度異なる役で本作にも登場して話題をさらった。そう考えると、ある意味『ヤマト』の主人公コンビ、富山敬と麻上洋子(一龍斎春水)以外はほぼ本作にスピンオフ(?)出演したことになるが、じつは富山と伊武は別番組で共演していた。円谷プロダクション製作(実制作は日本サンライズ[現・サンライズ])のTVアニメ『ザ⭐︎ウルトラマン』だ。この作品で富山は主人公のヒカリ超一郎役を演じ、伊武は変身後のウルトラマンジョーニアスの声を演じていた。つまり古代進が変身するとデスラー総統になるわけで、この狙ったキャスティングには当時の『ヤマト』ファンは悶絶した。番組中盤からは森雪や『銀河鉄道999』のメーテルを意識した、ジョーニアスの妹のアミア(声は滝沢久美子)も登場して『ヤマト』ファンに、より衝撃を与えた。なお、柴田秀勝も『ザ⭐︎ウルトラマン』にゴンドウキャップ役で並行出演しており、当時のアニメ界がいかに彼・彼女らおなじみの名優たちによって支えられていたかを窺(うかが)い知れる。
こうして完全に独自の世界観を構築できた『宇宙空母ブルーノア』だったが、当時の異常ともいえる『ヤマト』熱冷めやらぬ渦中で、その強烈なイメージを払拭することはあまりにも難しく、陰に埋もれてしまった印象は否めない。それだけに、45年を経た今こそ、冷静且つ客観的な視点で本作を再視聴いただき、今後の再評価の礎(いしずえ)としてほしいと切に願う。
著者:岩佐陽一(いわさ よういち)
昭和の特撮・アニメなどエンタメに精通する、なつかしテレビ専門ライター兼特殊映像プロデューサー。
1967年1月21日生、神奈川県出身。映像制作・書籍編集・芸能マネジメント会社 = バッドテイスト代表。代表作は映画『渋谷怪談1 & 2』('04年)、編著書では「聖戦士ダンバイン大全」(双葉社)、「70年代カルトTV図鑑」(文藝春秋)など。YouTube番組『シネマ野郎』に不定期出演。現在、国際映像メディア専門学校講師を務める。
視聴方法
第1話<1>無料公開中!
≪ここがすごい!『宇宙空母ブルーノア』≫