icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH
【連載】#10『ある女の愛』| 坂本安美 Gaumont特集 解説コラム  original image 16x9

【連載】#10『ある女の愛』| 坂本安美 Gaumont特集 解説コラム

解説記事

2024.02.02

SHARE WITH

  • facebook
  • twitter
  • LINE

世界で最も古い映画会社のひとつ、フランスの「Gaumont(ゴーモン)」の作品群の中から、「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」誌元編集委員で、 アンスティチュ・フランセ(主に東京日仏学院)にて映画プログラム主任としてご活躍されている、坂本安美さんがセレクトした10本を放送・配信する特集「Gaumont セレクション」。本連載では、坂本さんご自身に、各作品のみどころを解説していただきます。本編とあわせ、ぜひお楽しみください。

 『ある女の愛』というシンプルかつ美しいタイトルを持つ本作は、ジャン・グレミヨン(1901年〜1959年)が監督した最後の長編劇映画だ※1。グレミヨンは生前には十分に評価されずにいたが、その死後、徐々に再評価が高まり、いまではジャン・ルノワールと並び、30年代のフランス映画でもっとも重要な映画作家とみなされている。
 そのグレミヨンの魅力のひとつとして挙げられるのが、自然と人間とが相互に浸透し合う独自の映像美である。 『ある女の愛』は、日常の中に潜む人々の心の葛藤を浮き彫りしていく”日常的な悲劇”と称されるグレミヨン的メロドラマの集大成といえる作品だが、そこで重要となるのも登場人物とその人物が身を置くことになる場所との関係である。
 「ある女」、マリーを演じるのはミシュリーヌ・プレール。『偽れる装い』(1945、ジャック・ベッケル)や『肉体の悪魔』(1947, クロード・オータン=ララ)で主演に抜擢され、若くしてフランス映画を代表する女優のひとりとなったプレールにとって、本作は間違いなく代表作であり、マリーは彼女が演じたもっとも美しい登場人物であるだろう。冒頭、マリーがウェサン島という未知の土地に徐々に入っていく登場シーンを映画は時間をかけて見せていく。広い海の上、マリーを乗せた小舟がゆっくりと港に到着し、そこに屯するブルターニュの民族衣装を身に纏った島の人々の様子がまるでドキュメンタリー映画を見ているように映し出される。古くから続く伝統や慣習が残るこの島で、その若さや女性であることからか、マリーは、医師としてなかなか認められず、侮られさえする。仕事を持ち、自分の意思で人生を選択しようとする女性たちが周囲の人々、社会と闘う姿をグレミヨンはこれまでも映画で描いてきた※2 が、本作では女たちの選択、勇気、孤独というテーマをこれまで以上に映画の中心に置き、現代を生きる女たちのポートレートを映画ならではの手法で浮かび上がらせていく。
 まず医師としての仕事を遂行するマリーがリアリズムによって見せられていく。たとえば、肺炎にかかった少女の家を訪れ、治療するマリーの一挙手一投足が映像と音の両方で丹念にとらえられていく。そのマリーは橋の建設現場を率いるアンドレ(マッシモ・ジロッティ)を愛するようになり、そのことで愛への献身と、職業的、社会的独立との間で引き裂かれることになる。いかにマリーが選択していくのか、グレミヨンは映画的手法でそれを見せていく。マリーとアンドレは多くの場合、ロング・ショット、つまり周りの風景とともに映されるのだが、そのことによって愛し合う二人の世界はより広い世界の中で相対化され、マリーはつねにその周囲の世界へと呼び戻されて行く。彼女がどちらを望んでいるのかではなく、世界との関係においてマリーが選んでいくのを映画は示していく。そのマリーが進む道を照らし出すのは、海の向かうに屹立する灯台の光であり、映画の後半、マリーはまさにその灯台へと向かうことになる。冒頭、老医師が灯台を描写して「君のように海にポツンとひとりで佇んでいるね」と何気なしに漏らした言葉にハッとした表情を浮かべていたマリーは、ラスト、その言葉を真に噛み締めることになるだろう。
※1 ジャン・グレミヨンは20 年代まずドキュメンタリー作品で監督の道を始め、28年に初長編劇映画『マルドーヌ』を発表。その後も、前衛的作品、ドキュメンタリー、劇映画というジャンルを往来しながら、映画を撮り続けた稀有な監督であった。ちなみに遺作となった『アンドレ・マッソンと四大元素』(1958年)は画家アンドレ・マッソンについてのドキュメンタリー、傑作といえる作品である。

※2  『高原の情熱』(1942年)でマドレーヌ・ロバンソン演じるファッションデザイナーや、『この空は君のもの』(1943年)でマドレーヌ・ルノー演じる飛行機乗り、あるいは『曳き船』(1941)のミシェル・モルガンなど、グレミヨンは時代に先駆けて家族や恋愛、職業という規制の枠を超えて自らの道を選んでいく女性たちを描いてきた。『ある女の愛』のマリーはイングリッド・バーグマンがロベルト・ロッセリーニの映画で演じた女性たちと並ぶ、現代的で美しい登場人物であるだろう。
『ある女の愛』(1953)|L'AMOUR D'UNE FEMME
監督:ジャン・グレミヨン/出演:ミシュリーヌ・プレール、マッシモ・ジロッティ、ギャビー・モルレー

<作品情報>
フランス映画史上でも最も偉大な映画作家のひとりとして近年再評価されてきたジャン・グレミヨン監督がキャリア後期の1953年に発表した作品。ブルターニュの離島に医師として赴任してきた主人公のマリーが、少しずつ島の住民に腕を認められていく一方で、ある男性と運命的な恋に落ちたことで、自身のキャリアと愛との間で選択を迫られる様子を描く。島の美しい自然や計算しつくされたショットの数々が見る者を魅了する。

<あらすじ>
ブルターニュの離島、ウシャンへ女性医師のマリーが赴任してくる。はじめは若い女性であるマリーに偏見を持っていた島の住民らだったが、マリーの腕の確かさを知り、誰もが信頼を置くように。そんなある日、マリーはアンドレと出会い運命的な恋に落ちる。ふたりはしばらく幸せな時を過ごしていたが、アンドレはマリーに仕事を辞めて自分と結婚して欲しいと言う。アンドレへの愛と自身の仕事との間で選択を迫られたマリーは…。

(c) 1954 Gaumont (France) / Films Costellazione (Italie)
特集配信:フランスの老舗映画会社「Gaumont」セレクション
世界で最も古い映画会社のひとつ、フランスの「Gaumont(ゴーモン)」の作品群の中から、アンスティチュ・フランセ(主に東京日仏学院)にて映画プログラム主任としてご活躍されている、坂本安美さんに全10本をセレクトしていただきました。惜しくも日本ではなかなか見られないレア作品を中心に、12月と1月の2カ月連続でお届けします。各作品は以下よりお楽しみください!

・呼吸ー友情と破壊 視聴はこちら>>
・ジャンキーばあさんのあぶないケーキ屋 視聴はこちら>>
・愛の犯罪者 視聴はこちら>>
・OSS 117 私を愛したカフェオーレ 視聴はこちら>>
・愛しのプリンセスが死んだワケ 視聴はこちら>>
・放蕩娘 視聴はこちら>>
・明日はない 視聴はこちら>>
・ある女の愛 視聴はこちら>>
・裸の幼年時代 視聴はこちら>>
・これで三度目 視聴はこちら>>
12 件

RELATED