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「特集:ジャンゴたち!」にあわせて、これだけは見るべし!! ジャンゴ映画6本を解説 [後編]

解説記事

2023.08.02

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ドラマ『ジャンゴ ザ・シリーズ』独占日本初放送にあわせて、この夏、ドラマではなく映画の“ジャンゴ”も満を持して特集放送。玉石混交あまたある“ジャンゴ”映画の中でも、まず見ておくべき作品はどれか!? 我々スターチャンネルは、マカロニ・ウエスタン研究家のセルジオ石熊氏にラインナップ策定に協力をいただいた。7月の前編に続いてセルジオ石熊氏みずからが推薦作を解説する映画コラムの今回は第2弾。8月放送分『情無用のジャンゴ』『待つなジャンゴ引き金を引け』『ジャンゴ対サルタナ』をお届け!

目次

■なんでもいいから西部劇を撮れ! 新人監督もマカロニ・ウエスタンで映画界に続々参入

 そんなころ、ドキュメンタリー映画を自主制作したことをきっかけにルキノ・ヴィスコンティやミケランジェロ・アントニオーニ、フェデリコ・フェリーニらと知り合い、ルックスを買われて『甘い生活』[1960]などに出演していたパルチザン出身の若者ジュリオ・クエスティのもとへ、友人のプロデューサーが訪ねてきて、こう言った。「なんでもいいから西部劇が必要なんだ。大急ぎで一本作ってくれ」

 書きかけの映画脚本(後に『殺しを呼ぶ卵』[1968]になる)を放り出したクエスティは、コンビを組んでいた友人の編集兼脚本のフランコ・アルカッリと共に大急ぎで西部劇脚本をまとめると、スペインへ飛んでウエスタンを撮り上げた。こうして生まれたのが『情無用のジャンゴ』(1967年)、イタリア原題は「お前が生きていたなら撃て!」だ。主人公の流れ者に名前はなく、どこにもジャンゴは登場しなかった。が、英語題名は「ジャンゴ・キル! お前が生きていたなら撃て!」となっていた。

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 主演はトーマス・ミリアン。キューバ系アメリカ人でかの有名なアクターズ・スタジオ出身の演技派俳優だ。『ボッカチオ'70』[1962]のルキノ・ヴィスコンティ篇などに出演していたが、文芸映画ではお金にならないので、このころから娯楽映画路線にキャリアを転じていた。『復讐のガンマン』[1966]、『血斗のジャンゴ』[1967](こちらも“ジャンゴ”など出てこない無関係な作品)など、「マカロニ・ウエスタン三大セルジオ」のひとり、セルジオ・ソリーマ監督作品に連続出演していた(ちなみに3人目のセルジオの息子ステファノ・ソッリマは『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』[2018]やスターチャンネルで放映されたミニシリーズ『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』[2020]などの監督をしている現役バリバリの映画監督だ。*ソリーマとソッリマは同じ苗字だが、日本での読み方&表記が違っただけ)。

■スピルバーグも参考にした(らしい)マカロニ・ウエスタンの異端カルト作『情無用のジャンゴ』

 ジャンゴ……ではなく、名もない流れ者の主人公は、金塊強盗団に加わっていたが、強奪成功後に首謀者たちに裏切られ、仲間の農民たちと共に墓を掘らされ、銃弾の嵐を浴びる。が、運よく生き残った彼はインディアンに助けられる。たどり着いた町の住民はみな強欲で、先に着いた強盗団は皆殺しにされて金塊も奪われていた。派手な衣装を身にまとったボスに率いられたゲイ集団はじめ、悪党だらけの町には、幽閉された女や男色の餌食になる美青年(レイモンド・ラブロック)がいた。インディアンは殺され、流れ者も捕らえられて十字に縛られて拷問を受ける……。

 墓場から復活し、半裸で十字に縛られてムチ打たれる主人公はまさしくキリストを思わせる。監督クエスティいわく、強盗団の非道な裏切りも、愚かで自分勝手な住民たちも、二次大戦時にパルチザンとしてファシストと戦っていた時に見た世界が投影されているという。白昼、町の広場に逆さ吊りにされる強盗団の死体は、まるでムッソリーニの最期を思わせる描写だ。そして、黄金の銃弾で撃たれた男の腹を指でほじくり、インディアンの頭の皮をはぎ取る残酷描写は物議を醸し、同性愛描写を含めてイタリアでは裁判沙汰になり、上映中止に追い込まれた(のちに一部残酷シーンなどをカットされたバージョンで一般公開されたという)。

 残酷&男色描写と大胆で神経を逆なでするような画面編集(クエスティの盟友フランコ・アルカッリが担当)から、“シュールレアリズム”的マカロニ・ウエスタンとも評され、レオーネ、コルブッチの娯楽作品とは一線を画していた。まさにマカロニの極北にあるともいえそうな『情無用のジャンゴ』だが、公開後に評価はウナギのぼりとなり、今や『続・荒野の用心棒』と並ぶマカロニ・ウエスタンを代表するカルト作とされている。スティーブン・スピルバーグが『プライベート・ライアン』[1998]製作中に参考に観ていたという証言もある。

 「ジャンゴ」の名のもとに「なんでもいいから西部劇」を発注されながら、独自の映像表現の中にさまざまな人間描写・社会批判を強烈に盛り込んだ異端のマカロニ・ウエスタン『情無用のジャンゴ』には、本物の「ジャンゴ魂」が宿っているように思える。
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