icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH
「特集:ジャンゴたち!」にあわせて、これだけは見るべし!! ジャンゴ映画6本を解説 [後編] original image 16x9

「特集:ジャンゴたち!」にあわせて、これだけは見るべし!! ジャンゴ映画6本を解説 [後編]

解説記事

2023.08.02

SHARE WITH

  • facebook
  • twitter
  • LINE

ドラマ『ジャンゴ ザ・シリーズ』独占日本初放送にあわせて、この夏、ドラマではなく映画の“ジャンゴ”も満を持して特集放送。玉石混交あまたある“ジャンゴ”映画の中でも、まず見ておくべき作品はどれか!? 我々スターチャンネルは、マカロニ・ウエスタン研究家のセルジオ石熊氏にラインナップ策定に協力をいただいた。7月の前編に続いてセルジオ石熊氏みずからが推薦作を解説する映画コラムの今回は第2弾。8月放送分『情無用のジャンゴ』『待つなジャンゴ引き金を引け』『ジャンゴ対サルタナ』をお届け!

目次

■玉石混淆・乱発マカロニ・ウエスタンの中で異彩を放つニセ“ジャンゴ”

 1960年代、テレビの台頭に押されながらも、映画はまだまだ大衆娯楽の王道だった。日本やアメリカ(ハリウッド)では、俳優や監督を抱えた大映画会社がマーケティングや社会情勢を考えながら映画作品を量産していた。が、イタリアでは様相がまったく違った。大きな配給会社は存在したが、製作会社のほとんどが個人経営、いってみれば個人プロデューサーがお金を集めて映画を作っていた。当然、プロデューサーも出資者も儲かりそうな映画を作ろうとする。マカロニ・ウエスタン・ブームが到来すると、われもわれもと誰もが西部劇を作ろうと画策し、なかには『情無用のジャンゴ』のような傑作も生まれたが、予算もアイディアも足りないまま付焼き刃(つけやきば)で世に出された愚作もあった。
 
 元祖ジャンゴ=『続・荒野の用心棒』のプロデューサーも、さらなる金儲けを目指して続編を企画した。が、報酬契約でもめていたらしいセルジオ・コルブッチもフランコ・ネロも参加せず、ネロによく似た“青い目をした若手俳優”テレンス・ヒルを主役に抜擢し、別の監督を起用して『殺しのジャンゴ/復讐の機関砲(ガトリングガン)』[1968]が作られた。中途半端に本家に似た主人公だったおかげで、正式な続編のはずなのに、どうしても「ニセモノ」「バッッタモン」的雰囲気がぬぐえない珍作となった。そして、これをきっかけに、セキを切ったようにニセ「ジャンゴ」映画が乱立していく。『復讐のジャンゴ・岩山の決闘』[1967]は、後付けで「ジャンゴ」の名を遠慮がちに使っただけのようだが、1968年以後は、堂々と「ジャンゴ」を名乗る主人公がスクリーンを闊歩するようになる。なかでも、『ジャンゴ・ザ・バスタード』[1969] や『復讐のガンマン・ジャンゴ』[1971]のアンソニー・ステファンは、スタイルがよく、悪くないニセ「ジャンゴ」を演じて、いつのまにかマカロニ・ウエスタン主演本数ナンバー1と呼ばれるほどに大活躍した。とはいえ、小さい目を細めて渋みを出すワンパターン演技で、何本見てもほとんど印象に残らないのが最大の特徴だった。

 そもそも『続・荒野の用心棒』は、冒頭とエンディングだけが決まっていて、毎日脚本が書き足しながら撮影されたという驚くべき製作方式がとられていたのだが、こうした行き当たりばったりの映画作りは、もともとドキュメンタリー・タッチのネオレアリズモ映画を得意にしていたイタリア人にとって特に珍しいことはなかったようだ。とはいえ、才人セルジオ・コルブッチならともかく、「とりあえず儲かるようだから西部劇、ジャンゴの名前もいただきだ」と参入した凡人監督ではそうはいかない。玉石混淆のマカロニ・ウエスタン/ニセ・ジャンゴの中でも、元祖ジャンゴの行き当たりばったり精神を受け継ぎ、イタリア映画、いやマカロニ的映画作りの本道をいった注目作が『待つなジャンゴ引き金を引け』[1968]だ。

licensed by Rewind Film S.r.l. - all rights reserved

■イタリア映画の底力を見せつける『待つなジャンゴ引き金を引け』

 街道で牧場主が20人近い悪漢たちに囲まれ、あっさり射殺されて10万ドルが奪われる。旅から戻った息子ジャンゴが犯人を追う……。と、いってみればそれだけの物語で、ジャンゴ(ショーン・トッド)は見た目は地味だが、ひたすら強く、早撃ちで敵をなぎ倒す。元祖ジャンゴのようにリンチされて傷だらけになることもなく、女に惑うこともない(妹しか出てこない)。悪人は何人か出てくるが、みな部屋か広場に立ってセリフを言っているばかりであまり活動しない。撃ち合いは、移動したり場所を変えて敵を狙ったりすることはなく、すべて決闘スタイル。勝負は一瞬で決まり、みな次々に地面に倒れこむばかり……これはいったいどうしたことか……答は簡単だ。脚本がなく、予算もないので複雑な撃ち合いシーンなどは展開できない。血のりを用意したり、小道具を壊したりするのはお金がかかる。ゆえに、誰もが決闘スタイルでゆったり正面に構えて、撃たれたら倒れる、というわけだ。

 もちろん金もない代わりにアイディアはいろいろ盛り込まれている。コメディリリーフ的存在の棺桶屋の老人は『荒野の用心棒』[1964]、酔っ払い老人は『リオ・ブラボー』[1959]からのイタダキ。最後の決闘が、とにかく顔のアップで長引かされているのは、もちろんセルジオ・レオーネの影響(パクリ)だ。

 ヒーローの相手役(恋人)が登場しないのも珍しいが、演じているのがショーン・トッド(アイヴァン・ラシモフ)とラダ・ラシモフという、セルビア系イタリア人の俳優兄妹なので、そのまま兄妹役にしたのだろう。途中から現れてラスボスになる殺し屋ホンド(ジョン・ウエイン主演作に『ホンド―』[1953]があった)を演じているのが、脚本を担当したヴィンチェンツォ・ムソリーノ(脚本はグレン・ヴィンセント・デイヴィス名義)なのも、なにやら人手不足の感がいなめない。
 
 ブームに乗って続々誕生・乱発されたマカロニ・ジャンゴ物の中で、幸運にも後に評価されカルト化した名作が『情無用のジャンゴ』(原題「お前が生きていたなら撃て!」)だとすれば、『待つなジャンゴ引き金を引け』(劇中に同じセリフが登場する。が、ジャンゴはなかなか引き金を引かない)は、ブームの中で生まれた数多のトンデモ失敗作を代表する一本だろう。日本やアメリカ、また(ビデオプレイバックで確認しながら撮影される)現代の映画作りでは決して生まれることがないに違いない貴重な映画遺産であり、1960年代のイタリア映画人の底力……いや、したたかさを十分にみせつけてくれる一本である。
〈 3 / 4 〉
33 件

RELATED