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【連載】#1『放蕩娘』| 坂本安美 Gaumont特集 解説コラム  original image 16x9

【連載】#1『放蕩娘』| 坂本安美 Gaumont特集 解説コラム

解説記事

2023.12.01

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世界で最も古い映画会社のひとつ、フランスの「Gaumont(ゴーモン)」の作品群の中から、「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」誌元編集委員で、 アンスティチュ・フランセ(主に東京日仏学院)にて映画プログラム主任としてご活躍されている、坂本安美さんがセレクトした10本を放送・配信する特集「Gaumont セレクション」。本連載では、坂本さんご自身に、各作品のみどころを解説していただきます。本編とあわせ、ぜひお楽しみください。※『放蕩娘』は1月5日配信開始予定

 『放蕩娘』は、映画が「出会い」の芸術であることをあらためて教えてくれる。一本の映画とは、現実にカメラが向けられ、そこに存在する異なる何かと何か、誰かと誰か、あるいは何かと誰かがショットの中で出会い、そのショットが別のショットへと繋げられていくことで織り成されていく。監督ジャック・ドワイヨンの多くの作品で、登場人物が数人に限られているのは、大きな枠組みの中で自由を制限されることを阻むためだけではなく、そうした出会いをかけがえのない出来事として刻み、その関係から生まれる感情のうねり、流れを丁寧に辿っていくためであるだろう。そのドワイヨンの長編6作目となる『放蕩娘』でも、シーンに登場する人物は二人、あるいは三人に限られており、そのほとんどのシーンが父と娘の間で繰り広げられる。そしてその父と娘を演じるのはミシェル・ピコリとジェーン・バーキンである。
 ジャン=リュック・ゴダール、ルイス・ブニュエル、アルフレッド・ヒッチコック、マルコ・ベロッキオなど、20世紀の偉大な映画作家たちの作品に出演し、現代映画を牽引してきたといっても過言でない偉大な俳優ミッシェル・ピコリ。かたや、セルジュ・ゲンズブールのミューズ、ファッション・アイコンとして世界的人気アイドルだったジェーン・バーキン。イギリス生まれのバーキンは10代の頃、モデルとして出発し、60年代半ばにミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』(1967)などで映画女優としての道を歩み始め、その後フランスに渡り、セルジュ・ゲンズブールと共に官能的過ぎると物議を醸した『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』(1969)を生み出すなど、神話的カップルとして一世を風靡する。それぞれが時代を象徴する存在でありながら、これまで出会うことのなかったピコリとバーキンがドワイヨンによってこの作品で出会うことになる。
 本作は、1980年の夏、ノルマンディーの海岸で、脚本の時系列に沿って撮影される。ドワイヨンは俳優たちの生の存在、真実を引き出していくまで何度もテイクを重ね、名撮影監督ピエール・ロムのカメラの繊細なフレームワークと動き、そしてノルマンディーの海辺の刻々と変化していく光を取り入れた神秘的な照明によって、俳優たちの言葉、動きが「アクション」そのものとして露呈していく。バーキンは彼女の女優としてのキャリアを大きく変えることになる本作でのドワイヨンとの出会いについて次のように述べている。 ※1「いわゆるインテリ映画を作る人が私を出演させようと考えたのは初めてでした。ジャックは、洋服を脱いだ私には興味がなく、その逆に首までシャツのボタンを閉めるように言いました。そしてこう言ったのです。『君の頭の中で何が起こっているのか知りたいんだ』と」。
 それまでほとんど裸同然のスタイルでスクリーンに登場し、セクシーでミステリアスなファム・ファタールや、大衆コメディ映画での滑稽で活発な女性像を演じてきたバーキンは、これまで見せることのなかった憂いや存在論的な不安に取り乱した姿をこの映画で露わにさせている。そして時にこちらを驚かせるほど暴力的に、がむしゃらに熱情の中に身を投じていく。求める対象であるとともに、自分の苦悩の源、「自分の出自であるその男」の顔を、その人の心をより近くで見て、感じたい、そうした差し迫った必然性とともに、彼女はひたすら言葉や身体をぶつけていく。
 それに対してピコリ演じる父はひたすら受け身であり、慎み深く、優しさそのものであり、心の病に苦しむ娘の言葉に耳を傾け続けながらもどうしていいのか分からず、その大きく立派な身体を持て余している。まさにピコリならではのすぐれた抑制的な演技であり、その沈黙からは言葉にならない声が響いてくるようだ。その静的な存在が娘によって挑発され、爆発する瞬間があるのだが、「人生が遠ざかってしまい、見えない」と途方にくれる娘に「現実を挑発しろ、目覚めさせるんだ」と諭すのはまさにその父であるだろう。「人生を目覚めさせ」、そこに感情が流れていくためには、荒々しさと優しさ、その二極が必要であるかのようにバーキンとピコリはその間を往来し続ける。本作は父と娘の間のタブーとされる関係を扱いながら、精神分析的意味を問おうとしたり、審判したりすることはせず、俳優たちの言葉と身体によるアクションによって、そのタブーをとことんまで消耗させてしまうだろう。本作からちょうど10年後、バーキンとピコリは、ジャック・リヴェットの『美しき諍い女』(1991)で忘れ難いカップルをふたたび演じることになる。出会いはさらなる出会いをよんでいく……。
※1 バーキンとドワイヨンは本作で結ばれ、それから10年近くふたりは公私共にパートナーとなる。バーキンは『ラ・ピラート』(1984)、『ふたりだけの舞台』(1987)と計3作のドワイヨン作品で主演を務めたほか、『15歳の少女』(1988)ではアシスタント・記録係を務めるなど、この間ドワイヨン映画を支え続けた。バーキンは本作出演後、ジャック・リヴェット、ジャン=リュック・ゴダール、アラン・レネらの作品や、パトリス・シェローの舞台に出演するなど、女優としての才能を大きく開花させていく。
映画のアトリエ 〜フランス映画の秘宝を探して〜 Gaumont(ゴーモン) 特集
スターチャンネル放送配信記念特別企画


今回の特集を記念して、東京日仏学院にて特別ゲストによるトークショー付き上映イベントの開催が決定。ここでしか出会えない珠玉の作品を特別ゲストによるトークとともにぜひ発見ください!

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◉ 12月8日(金)
18:00 上映『放蕩娘 』 (98分)
19:40 アフタートーク (約60分) ゲスト:三浦哲哉、ゆっきゅん

◉ 12月10日(日)
15:30  上映 『これで3度目 』 (83分)
17:00  レクチャー(約60分) ゲスト:須藤健太郎
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※イベントは終了しました
『放蕩娘』(1981)|LA FILLE PRODIGUE
監督:ジャック・ドワイヨン/出演:ジェーン・バーキン、ミシェル・ピコリ、ナターシャ・パリーほか

<作品情報>
ジャック・ドワイヨン監督によるジェーン・バーキン主演の衝撃作。本作で出会ったふたりはその後夫婦関係になったことでも知られている。精神的に不安定な主人公のアンをバーキンが演じ、その鮮烈な演技と圧倒的な存在感で見る者を魅了する。そんなアンの父親役は『軽蔑』などのフランスの名優ミシェル・ピコリが演じ、その苦悩を見事に表現。フランスを代表する才能が一同に会し作られた美しくも恐ろしい家族の物語となっている。

<あらすじ>
精神的に不安定なアンはしばらく夫のもとを去り、田舎の実家に帰って、もう一度両親のもとで子供の頃のように過ごそうとする。そんな中、母親はアンの妹の出産の立ち会いのため家を離れることに。父親とふたりきりになったアンは、父親が不倫していると知り、相手の女性を夕食に招待するが、うまくいかない。次第に父親への気持ちを募らせていくアン。苦悩しながらもふたりの関係は次第に近親相姦的になっていき…。

(c) 1981 Gaumont
特集配信:フランスの老舗映画会社「Gaumont」セレクション
世界で最も古い映画会社のひとつ、フランスの「Gaumont(ゴーモン)」の作品群の中から、アンスティチュ・フランセ(主に東京日仏学院)にて映画プログラム主任としてご活躍されている、坂本安美さんに全10本をセレクトしていただきました。惜しくも日本ではなかなか見られないレア作品を中心に、12月と1月の2カ月連続でお届けします。各作品は以下よりお楽しみください!

・呼吸ー友情と破壊 視聴はこちら>>
・ジャンキーばあさんのあぶないケーキ屋 視聴はこちら>>
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・OSS 117 私を愛したカフェオーレ 視聴はこちら>>
・愛しのプリンセスが死んだワケ 視聴はこちら>>
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・明日はない 視聴はこちら>>
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