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【連載】#5『愛しのプリンセスが死んだワケ』| 坂本安美 Gaumont特集 解説コラム  original image 16x9

【連載】#5『愛しのプリンセスが死んだワケ』| 坂本安美 Gaumont特集 解説コラム

解説記事

2023.12.29

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世界で最も古い映画会社のひとつ、フランスの「Gaumont(ゴーモン)」の作品群の中から、「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」誌元編集委員で、 アンスティチュ・フランセ(主に東京日仏学院)にて映画プログラム主任としてご活躍されている、坂本安美さんがセレクトした10本を放送・配信する特集「Gaumont セレクション」。本連載では、坂本さんご自身に、各作品のみどころを解説していただきます。本編とあわせ、ぜひお楽しみください。

 原題は『パレ・ロワイヤル(Palais Royal) !』。パレ・ロワイヤルとはフランス語で「王宮」の意であるが、ご存知の通りフランスに王室が存在しなくなってからすでに二世紀近い月日が経っている(「パレ・ロワイヤル」はパリ一区、ルーブル美術館前に残されたかつての王宮の建物とその界隈の名称としてのみ残っている)。では本作で描かれる王室はどこの国の王室なのだろうか?ヨーロッパの架空の国の王室、あるいはフランスにまだ王室があったらという仮定に基づいたファンタジーとして見ることができ、今でも存続しているイギリスやベルギーの王室から着想を得た設定や逸話が散りばめられているのに気づかれる方も多いだろう。
 その脚本、監督、主演を務めるのはフランスで国民的人気を誇るヴァレリー・ルメルシエである。ルメルシエは18歳頃からテレビ、舞台でコメディアンとして活躍し始め、絶大な人気を得ていく。ルイ・マルの『五月のミル』(1990年)で映画デビュー(当時、23歳ながら50歳の女性の役を好演!)、それ以降、次々と出演オファーを受けるようになり、1997年、とうとう『カドリーユ』で監督デビュー。この『カドリーユ』は、今回の”Gaumont(ゴーモン)特集”の一本である『これで三度目』の監督、そして主演のサッシャ・ギトリの1937年の傑作コメディのリメイクである。監督一作目でその代表作のリメイクを試みたルメルシエが、20世紀前半、演劇と映画を往来しながら唯一無二の作品を生んだギトリから影響を受けているとすれば、それは「演出(ミザンセーヌ)」そのものを作品のテーマにしているところではないだろうか。「演出(ミザンセーヌ)」とは字義通り訳せば、「舞台に置くこと」となるが、本作では、まさにどのように舞台に身を置くかが重要となっていくのだ。
 本作を見続けていくと、俳優とその周囲を広く映すロングショットが多用され、カメラをほとんど動かさずに撮影されていることに気がつかれるだろう。ヴァレリー・ルメルシエ演じるアルメルは、その広いショットの隅に身を置いており、自己主張することも少ない。しかし突然プリンセスとなったアルメルは、ある事件をきっかけに、隅にいることや控え目であることを逆手に取って、復讐劇を展開していく。テレビやゴシップ紙など、メディアを味方につけ、ちょっとした表情や仕草、短い言葉を演出することで、彼女を馬鹿にしてきた周囲の人々を劣勢に追い込んでいく。こうしていつの間にかそれまで隅にいた彼女が中心を占めるようになっていくのだ。
 フランス映画、演劇界の名優たちの共演が見られるのも本作の見どころだ。俳優と監督を兼ねるルメルシエは、カメラの後ろを前を行き来しながら、他の俳優たちにも演出の裁量を与え、各々はその個性を十分に発揮しそれに応えていく。その中でもとくにカトリーヌ・ドヌーヴはこの映画を見事に自分の手中に収めている。「フランス映画のファーストレディ」である自分をジョークにしながら、威厳を失うことなく、おおらかにその役を演じていて、見ていてまさにあっぱれ!と叫びたくなる。リスクを怖れることのない我らがルメルシエとドヌーヴのふたりは、下品さの限界を押し広げる茶目っ気と優雅さを共に楽しんでいるかのようである。
『愛しのプリンセスが死んだワケ』(2005)|PALAIS ROYAL!
監督:ヴァレリー・ルメルシエ/出演:ヴァレリー・ルメルシエ、ランバート・ウィルソン、カトリーヌ・ドヌーヴほか

<作品情報>
女優、監督、脚本家と幅広く活躍するヴァレリー・ルメルシエ(『ヴォイス・オブ・ラブ』)が今作でも監督・脚本・主演を兼任。架空のヨーロッパの王国を舞台に、突然夫が王位を継承することになり、女王の役目を任されてしまった主人公が、慣れない環境で奮闘するさまを描いたコメディ。数々のコメディ作品を世に送り出し、フランスで絶大な人気を誇るルメルシエらしいウィットの効いたジョークの数々は爆笑必至。

<あらすじ>
国王の次男、アルノー王子と結婚したアルメルは言語聴覚士として穏やかに暮らしていた。しかしある日突然、国王がスキー事故で亡くなってしまう。本来なら長男のアルバン王子が王位を継承するはずだったが、独身であることが理由で次期国王はアルノー王子の役目に。アルメルも言語聴覚士としての仕事を諦め、王家の一員として公務に専念することになる。アルメルは慣れない生活に戸惑う一方、夫が浮気していることに気が付き…。

(c) 2005 Gaumont / De L'Huile / Rectangle Production / TF1 Films Production (France) / Palais Productions Ltd (Royaume-Uni)
特集配信:フランスの老舗映画会社「Gaumont」セレクション
世界で最も古い映画会社のひとつ、フランスの「Gaumont(ゴーモン)」の作品群の中から、アンスティチュ・フランセ(主に東京日仏学院)にて映画プログラム主任としてご活躍されている、坂本安美さんに全10本をセレクトしていただきました。惜しくも日本ではなかなか見られないレア作品を中心に、12月と1月の2カ月連続でお届けします。各作品は以下よりお楽しみください!

・呼吸ー友情と破壊 視聴はこちら>>
・ジャンキーばあさんのあぶないケーキ屋 視聴はこちら>>
・愛の犯罪者 視聴はこちら>>
・OSS 117 私を愛したカフェオーレ 視聴はこちら>>
・愛しのプリンセスが死んだワケ 視聴はこちら>>
・放蕩娘 視聴はこちら>>
・明日はない 視聴はこちら>>
・ある女の愛 視聴はこちら>>
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・これで三度目 視聴はこちら>>
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