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グザヴィエ・ドラン監督/日本独自インタビュー

解説記事

2023.07.11

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『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』の配信にあわせ、グザヴィエ・ドラン監督が作品についての思いを日本の視聴者に向けて語ってくれました。ぜひ本編とあわせ、本稿もご一読いただければと思います。

目次

インタビュー全文

Q. 初のドラマ作品の制作を振り返っての感想を教えてください

A. ずっとテレビ作品を作るのが夢だったんです。僕のルーツはテレビにあって、文化という意味でも、映画よりもずっとテレビに触れてきました。母は、僕が子供の頃、ケベックで放送されていたテレビ番組をすべて見ていたんじゃないかな? 僕も一緒にそれらを見ていたんです。

10代になった頃は、『チャームド 魔女三姉妹』、『ヤング・スーパーマン』、『バフィー 恋する十字架』、『ロズウェル』など、超自然的な要素のあるものや、ティーン・ドラマが大好きでした。アパートに引っ越してからは、HBOの『ラリーのミッドライフ★クライシス』や『ザ・ソプラノズ』、『ザ・カムバック』、そして何より『シックス・フィート・アンダー』を見ていましたね。

それらの作品と出会い、僕の人生は一変しました。でも当時語りたかった物語『マイ・マザー』はテレビでは無理だと思ったので、それで映画を作り始めたんです。実は初めての脚本もテレビもので、15歳の時に書いたものなんです。19歳でもう1本書きました。だから、テレビは常に僕の人生の一部だったし、前々からHBOのテレビ作品を作りたいと夢見ていたところがありました。

だからテレビへの移行はずっと前からそうしたい気持ちがあってのことでした。僕にとっての初恋だし、映画も大好きだけど、テレビのフォーマットや長さやスパンがすごく好きなんですよね。それがあるから、脚本を書きながらキャラクターをより深く掘り下げることができる。僕にとって大事なのはいつだってキャラクター・ライティングで(=脚本でキャラクターをどう書くか)で、監督がどうこうってことではないんですよね。フィルムメイキングというものは、たくさんの美しいものやメディアが組み合わさっています。その、映画というフォーマットに美学的に惹かれるのと同時に、僕は人間やキャラクターとじっくり時間を過ごすのが好きなんですね。何時間もかけて描かれる物語が好きなんです。だからテレビは僕の人生の中で元々ずっとやりたかったことでした。

そして、パンデミックがその選択を明示してくれました。誰もが家で孤立し、配信作品を観ていましたからね。だから、映画を作りたくないと決めたというより、ただテレビ作品というのが当時、最も現実的な選択肢だったし、製作費の調達も配給される可能性も高かった。そしてそれが実現したのがこの作品(『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』)です。また、3作続けて興行的に失敗したこともあり、劇場公開されても誰も観てくれないような映画を作ることに、特にワクワクする気持ちはなかった。それがテレビ作品を手掛けた経緯です。

実際に体験してみると、期待通り、いや、それ以上のものがありました。撮影現場は、喜びに溢れていると同時に、今までに体験したことのないような、厳格さとやる気に満ちていました。パンデミック下だったことで、これまで以上にリサーチと準備をすることができたからかもしれません。喜びと多幸感、情熱と厳格さや正確無比さが交じり合う、そんな現場でした。すべてのアーティスト、スタッフ、あらゆるレベルの人たちが、この物語を最高の形で伝えることに情熱を持って全力を尽くしていました。セットにももっと時間をかけられたし、衣装や撮影、装飾や制作、デザインに使えるお金も増えて、とにかく僕にとって、最高の体験でした。(今までで)最も完全で充実した、濃密で絶対的な方法で物語を伝えることができたと心から感じる作品だからです。
Q. 原作の戯曲をドラマシリーズというフォーマットで映像化される中で、エピソード数は最初から決められていましたか?また、とくに戯曲の中でとくに強調した部分はありますか?

A. 戯曲では、兄弟間の会話や対峙のすべてが母親の遺体防腐処理が行われている部屋で進行します。母親の防腐処理をしている娘を他のキャラクターたちが訪れ、問いかけや意見、発言、過去に埋もれたと思っていたものを彼女にぶつける。しかし、ロリエが目覚めたあの夜、何が起こったのかを劇中に知ることになる観客は、やがてこの家族の過去がすべて嘘であり、その嘘のために多くの人生が壊されたことに気付くんです。

なので、映像化にあたって、戯曲にはなかった90年代の部分を一から作り上げることにしました。これらの側面は、現代だけを舞台にし、1日、あるいは物語的には(登場人物たちの)5~6時間を描いていた戯曲にはなかった部分です。つまり、登場人物たちのある晩の5時間を描くお芝居から、3つの異なる都市で起きることを30年かけて描く作品に変更したことで、いろいろとふくらんでいったわけです。そしてエピソードの長さですが、これは、あまり決まっていませんでした。でも、エピソードごとに尺が異なること、1時間を超えるものが1本はあること、それでも最長でも1時間5分を超えることはないということはわかっていました。
Q. 監督は「いましか撮れないものを撮る」印象があります。『Mommy/マミー』以降の各作品を通し、今作まで、惹かれる題材はどんな風に変遷していきましたか?

A. 新しく語られるべき物語は常にあるものです。僕は作りたい映画を頭の中でしか前もって計画を立てない方なんですが、『Mommy/マミー』の後、カンヌに行ったら、何年も会っていなかったギャスパー・ウリエルがいたんです。他にもレア・セドゥ、マリオン・コティヤールが来ていて、モントリオールに戻った時、『Mommy/マミー』の主演でもあるアン・ドルヴァルが僕に渡してくれた戯曲のことを思い出しました。その戯曲が『たかが世界の終わり』で、ああ、彼らと映画化したらすごくいいものになるだろうな、と思ったんです。だからある意味状況に導かれて、急に『たかが世界の終わり』を作りたいと思い始めたんです。

『たかが世界の終わり』の撮影が終わる頃には、映画産業やショービジネス、まあ呼び名はなんでもいいのですが、その一員である僕が気づいたことについて、そして、この業界についての物語を作りたいと思っていました。自分が目撃した、ある意見やある現実、問題だと思うことを共有したかったのです。例えば、現代と言われる時代に俳優がまだカミングアウトできないことなどです。

そして『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』を含め、『たかが世界の終わり』など何作か(作品のよしあしではなく)経済的/興行的に失敗するという経験をしたこともあって、もう少し個人的でミニマルな、親密で落ち着けるものに立ち戻りたいと思いました。自分のホームグラウンドで友人たちと一緒に映画を撮りたかったんです。物語も非常にパーソナルなものにしたかった。それが『マティアス&マキシム』でした。

この4作品を見ると、(作品と作品の)間に自分や自分の身の回りで起きる出来事が、次に進む場所を決定してきたように思えます。自分の人生やキャリアを歩みながら、アイディアを想起してきていたんです。『マティアス&マキシム』の場合は、アトランタで『ある少年の告白』の撮影中、友人たちから遠く離れていたのがきっかけでした。彼らが恋しくて。そして、ある出来事によって引き裂かれた、とても親しい友人たちのグループの姿をふと思い浮かべたんです。脚本もアトランタで書きました。友人たちに会いたい気持ちがあったのと、次作がどんなものであろうと、(規模が)より小さく、ずっと親密なものになるだろうし、『ドノヴァン〜』よりも自分の人生に似ているものになると無意識にわかっていたからだと思います。
Q. ドラン監督の作品は「泣く」「孤独に耐える」といった感情演技が印象的です。俳優への演出において心がけていることはありますか?

A. 僕は役者が大好きです。僕自身が役者だし、監督してキャストに接する時は、役者として自分が監督には接してもらいたい方法で接するようにしています。それは台詞やアイディア、クリエイティブな直感など、彼らの言うことすべてに耳を傾け、考慮することでもあります。つまり対話ですよね。こうしろ、ああしろということではないし、進行形の作業なんです。

役者は準備万端で、セリフも逆さからだって読めるぐらいに入っているし、(演じる役の)すべてを知っている。準備もしてくれていて、リハーサルをやっているから、そこからどこに向かえばいいのか、堅固な基盤は既にできているわけです。でも一端現場に入ると、僕らはそのシーンを「生き」始め、アイディアがどこからともなく湧いてくる。それもまた考慮していかなければいけない。そこには自然発生的でクリエイティブな流れがあり、僕らはそこから自分たちが望むものをすべて把握し、掴み取らなければならないのです。

そして僕が好きな役者たちは、巧いとか、気持ちのノリがどうかとかとは関係のない、クリエイティブな人たちです。ずば抜けた独創的ではなかったとしても何らかのアイディアを持っていて、何よりも真実をもたらしてくれる役者が好きです。アイディア、個性、パーソナリティを持っている役者が大好きだし、キャラクターの一貫性にコミットしてくれる役者が大好きです。彼らは(自分が演じる)1人のキャラクターのことを考え抜き、知り尽くし、そのキャラクターが物事にどう反応するか、熟知しています。そして、作品すべてを通して、その一線を守り、外れないようにする。エゴで目立ちたいとか、シーンを自分のものにしたいとか、そうことではないんですよね。クリエイティブではあって欲しいけど、そういうことをするのには「場」というものがあるから。こういったことが僕にとって最も重要なことです。

そして、彼らにとって最も重要なことは、常に話し合いをし、意見が不一致であってもよいのだと同意できることだと思います。だから(映画を作っている間、)対話は絶え間なく、常に続いているし、僕らはお互いに好きに質問をし、選択を繰り返しながら、出来得る限り最高のストーリーを作り上げることができるのです。
Q. 日本でもドラン監督を支持している方が(映画業界の有名人も含めて)たくさんいらっしゃいます。日本で会ってみたい人や一緒に仕事をしてみたい人、行ってみたい場所などがあればぜひ教えてください。

A. 一緒に仕事をしたい人、に対する僕の答は、おそらくオリジナリティのないものなります。いろいろな日本映画を観てきましたが、今すぐには思い浮かびません。アニメの監督だと一緒に仕事をできないだろうし…あ、でも僕が声優ならできるかもしれないですね。映画監督では亡くなっている方もいるし…でも、うーん、そうですね。文化的な話でいくと、僕はまだアジアに行ったことがないのですが、訪れてみたいとは思っていて、行けるなら一番最初に駆けつけたい場所が日本なんです。その美しさ、美学、建築、文化、風景などすべてに触れたいし、東京はもちろん、京都や大阪にも行ってみたい。映画のために東京に行って、電車で大阪や京都に行きたかったのですが、3月末から4月初めの桜の季節だったため、すべてが満席でオーバーブッキング状態。観光客だらけだったんです。おかげで、その時期に行きたいなら、1年ぐらい前から旅行を予約しなければならないんだなと、学びました。それは僕にはとても難しいことではあるんですが…でも、旅ということで言えば、日本は僕にとって最優先に訪れたい場所なんです。

グザヴィエ・ドラン監督/インタビュー動画

グザヴィエ・ドラン監督が語る『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』

via YouTube

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また、以下の雑誌でも取り上げていただいておりますので、こちらもあせてぜひチェックしてみてください。

『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』視聴方法

Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」にて全5話配信中
視聴はこちら>>
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B8NYY698
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『ロリエ・ゴドローと、あの夜のこと』
原題:LA NUIT OÙ LAURIER GAUDREAULT S'EST RÉVEILLÉ
作品公式ページ:https://www.star-ch.jp/drama/lauriergaudreault/sid=1/p=t/

(c) Fred Gervais
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