スティーヴ・マックイーン監督作『スモール・アックス』第1話最速無料試写会レポート
「5作観ることで英国ブラックコミュニティを“立体的”に知ることが出来る」(宇野維正)
「スターチャンネルEX」では、アカデミー賞作品賞を受賞した映画『それでも夜は明ける』のスティーヴ・マックイーン監督が、初めて挑んだTVシリーズ『スモール・アックス』(全5話) を、 3月29日(火)から独占配信!ゴールデン・グローブ賞で最優秀助演男優賞(ジョン・ボイエガ)、ロサンゼルス映画批評家協会賞では『ノマドランド』を抑えて最優秀作品賞に輝くなど、世界中の映画賞で高い評価を獲得。“BLM(ブラック・ライブズ・マター)”の叫びが世界を揺るがす今、絶対に見逃せない、鋭い社会的メッセージとエンタテインメント性を備えた一級作品である。
本シリーズの配信を記念して、『スモール・アックス』第1話『マングローブ』の最速無料試写会が3月26日(土)に開催され、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正さんが登壇。“BLM運動” に至るまでの、イギリスにおける黒人の知られざる闘いの歴史を紐解くトークイベントが行われた。
5本の映画がアンソロジー形式でまとめられた本作について「今日上映された第1話『マングローブ』を初めて観た時は”かなり硬派だな”、という印象でした。これが5本あるのか?と(笑)」と初見の気持ちを告白。「第2話の『ラヴァーズ゙・ロックは1980年のとある晩、ウエスト・ロンドンで開かれたハウスパーティーが舞台で゙、カリブ系移民の若い男女の出会いが描かれていて、第1話とはかなり違う印象です。カンヌ映画祭では 第1話と第2話が上映されたそうで゙、確かにその2本を観ればこの映画アンソロジー・シリーズの“幅”が分かると思います」と全体の構成を解説した。
映画『それでも夜は明ける』で長編3作目にしてアカデミー賞作品賞を受賞したスティーヴ・マックイーン監督について「彼はイギリス出身で゙、もともとはモダンアートの作家。アーティストとして既に成功していた彼が映画を撮り始めたら、アカデミー作品賞まですぐに上り詰めてしまった。『それでも夜は明ける』ではアメリカの黒人差別の歴史が描かれていますが゙、マックイーン自身はイギリス人ですから、自国の黒人差別についての作品もいつか撮らなければいけない、という気持ちが゙あったんだと思います」と監督自身の製作に至る気持ちを推察。
また第2話『ラヴァーズ・ロック』以外のエピソードは全て実在に起こった事件が描かれている本作について「監督本人のインタビューにもありましたが、ウィンドラッシュ世代(第二次世界大戦後にカリブ海地域からイギリスへ移住した人々)の当事者から“一次情報”が得られるうちに映画にしたいという思いが゙強く、人種主義に対してプロテスト(抗議)したいという気持ちももちろんあったと思いますが゙、映画の役割の一つである“記録”としてこのタイミングになったのではと思います」と語った。一方で、第2話『ラヴァーズ・ロック』については「第1話だけだとちょっと堅苦しい作品という印象もありますが、とにかく第2話も観てください!最高にとろけますから。音楽が生活にどれだけ深く根付いているかを描いた、見事なビジュアル・エッセイになってます」と語り、オバマ元大統領が2020年のベスト”映画”に選んだ第2話も絶賛した。
あわせて、ボブ・マーリーのレゲエ曲「Small Axe」に歌われた不屈のメッセージ同様に、もう一つの“支柱”としてC・L・R・ジェームズ著の「The Black Jacobins(原題)」を挙げる。「登場人物が読んでいる本として別のエピソードでも登場します。これは18世紀にフランス領サン=ドマングに生まれてハイチ革命を主導したトゥーサン・ルーヴェルチュールについての本です。トリニダードから英国に渡ったジェームズはクリケットについての著書も残してますが、当時の英国社会で゙白人と対等に扱われる場所が、フェアプレイを前提とするクリケットのコートだけだったんです。そのことが、第1話『マングローブ』で゙描かれる法廷闘争にも繋っているんじゃないかなと。黒人にとって平等に扱われる可能性のある数少ない場所を描いているという点でも、ジェームズの著作と『スモール・アックス』は地続きにあります」と深い考察を披露した。
最後に「本作はスティーヴ゙・マックイーン監督のキャリアでも極めて重要な作品です。5本のアンソロジーという形式で゙、すべて自身が゙監督しています。同じ監督が全エピソードの監督を務めるケースが゙TVシリーズで゙増えてきていますが、そうした新しい動きの中でも決定的な作品と言えるのではないでしょうか。1話1話が独立した形で゙、それぞれが1本の映画になっていて、5つ観ることで゙“立体的”に60年代後半から80年代中盤の英国ブラックコミュニティが浮かび上がる。僕自身凄く勉強になりました。是非2話目以降も観ていただければと思います」と最速試写会を締めくくった。