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COLUMN

もはや近未来ではない、現実になり得る“書籍がない世界”
利便性がもたらす人間性の退化に警鐘を鳴らす、HBO FILMS®『華氏451』

“華氏451”。それは紙が燃え始める温度のこと。摂氏でいうと233度になる。
レイ・ブラッドベリが1953年に発表したSF小説『華氏451度』。1966年にフランソワ・トリュフォーが映画化した物語が2018年、HBO FILMS®によって再映像化された。

舞台は書物の所持が禁じられた近未来。多くの書物の影響により引き起こされた、無数の意見の衝突が内戦を招いたと信じられており、混乱をもたらす書物は“焼火士”によって次々と焼却されていた。書物を後世に残そうとする者は“ウナギ”と呼ばれ民主主義を脅かすとして排除の対象に。統一されたデータベースから身元を抹消され、何者でもないまま浮浪するという残酷な罰を与えられていた。

書物の焼却は火炎ショーとして人々に中継され、焼火士は英雄のように慕われていた。中でもモンターグは、そのルックスとこれまでの業績から将来有望なエースとして人気を集めていた。これまで焼火士こそが天職と信じていたモンターグ。しかしウナギの一味クラリスに「なぜやるか考えたことが?」と言われたことで、少しずつ疑念を持つように。そして目の前でウナギが本と共に焼身自殺したことをきっかけに、その疑念はさらに強いものになる…。

モンターグを演じるのは『クリード チャンプを継ぐ男』や『ブラックパンサー』で、熱狂的な支持を得たマイケル・B・ジョーダン。モンターグの上司、司令長のベイティ役には『マン・オブ・スティール』や『シェイプ・オブ・ウォーター』など話題作への出演が続くマイケル・シャノン。また、『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』の悪女役でその名を知らしめたソフィア・ブテラがクラリスを演じるなど、今話題の錚々たるキャストが参加している。

本作で描かれる近未来では、“YUXIE:ユークシー”というAIアシスタントが生活に根付いている。ユークシーは、アマゾンのアレクサやiPhoneのSiriのようなもので、まるで監視カメラのように室内外問わず設置されている。人々はユークシーを介して“ナイン”に繋がる。ナインとは、全ての市民に提供されるソーシャルメディアのプラットフォームのことで、報道や文献の代わりとなり、動画や画像によって人々に情報を提供する。市民は絵文字を使ってリアルタイムで反応を示すことができ、その様子はプロジェクションマッピングのように高層ビルに映し出される。インスタグラムなどのライブ配信機能が町全体で行われているようなイメージだ。

お察しいただけたと思うが、ここまで例を列挙できてしまうということは、もはや近未来の話ではない。原作が執筆されてから現代までの65年の歳月の中で、テクノロジーは予想以上に急速に発展し、既に物語に描かれているような時代に到達しつつある。本作を鑑賞した時に感じる不気味さや居心地の悪さは、この現実味にあると言える。

書物の楽しみ方は時代と共に進化を遂げ、より便利に、より身近になった。電子辞書には、厚くて重い辞書が数十冊分と収録されている。電子書籍も端末ひとつで無限の書籍を読むことができる。本作でも政府が公開を認めた書物に限り、ナイン上で読書は可能とされているが、その内容は…“絵文字”で表現されている。まさに文字離れが完了した世界。近年、活字離れ、文字離れの深刻化が叫ばれているが、なぜ問題なのか?それは人間らしさが損なわれるからではないだろうか?

象形文字にはじまり、真名や仮名が生まれたが、絵文字の誕生によって逆戻りしているように感じる。人間だからこそできた“文字を読み、理解する”という行為。しかし絵文字であれば、有能な類人猿でも理解できてしまいそうだ。

そもそも日本から生まれた文化“絵文字”は感情を添えるためにあったように思う。しかし“EMOJI”として欧米圏にも親しまれるようになり、いつのまにか絵文字だけで内容を伝える場面が生まれるようになったのだ。日本から飛び出し世界共通言語になった絵文字/EMOJI。そんな絵文字が第一言語になった世界を描く本作は、言葉が持つ力を忘れかけている世界に、立ち止まって考える必要性を訴えている。

かつて近未来として描かれた時代になりつつあるからこそ考えてほしい、テクノロジーがもたらす影響。本作を見て、あなたは何を思うだろうか?

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