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COLUMN

『ビッグ・リトル・ライズ』のHBO×ローラ・ダーンが再びタッグを組み、エミー賞2部門ノミネート。衝撃の実話を映像化したHBO FILMS®『ジェニーの記憶』

ダーン演じる主人公ジェニファー(=ジェニー)は、48歳のドキュメンタリー作家。現役作家として治安の悪い地域に取材に赴く一方、大学でも教鞭をとっていた。私生活では3年間婚約中の年下の恋人マーティンとふたりには余るほど広い部屋で同棲、満ち足りた生活を送っていた。

そんなある日、ジェニーの母から何件もの留守電が入る。ジェニーが書いた“物語”を見つけたと言うのだ。「私は特別な2人に出会い、愛するようになった。それは夫のいる女性と離婚をした男性。」という書き出しではじまるその物語を、子供の時に書いた最初の彼氏の話だと説明するジェニー。

何年も思い返すことのなかった記憶の引き出しを開けると、そこには馬術キャンプに通っていた13歳の頃の記憶が眠っていた。曖昧な記憶の断片を繋ぎ合わせれば繋ぎ合わせるほど、出てくる疑問や違和感。辿り着いた先には秘密の関係の“理由”が存在していた…。

性虐待の闇に迫った衝撃作で主演を務めたのはローラ・ダーン。『ワイルド・アット・ハート』をはじめとするデヴィッド・リンチ監督作品や『ジュラシック・パーク』に出演。90年代の代表作が多い印象だが、『きっと、星のせいじゃない。』や『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』など2010年代の代表作も多い。

最近では『わたしに会うまでの1600キロ』で仕事仲間となったジャン=マルク・ヴァレ監督とリース・ウィザースプーンが製作を務める『ビッグ・リトル・ライズ』に出演。豪華女優陣を起用した話題性、女性への暴力など現代が抱える問題を訴える内容は、ハリウッドを震撼させたセクハラ告発の動きと重なり、社会現象を巻き起こした。結果、名だたる賞を総なめにし、HBOが誇る代表作となった。再びHBO作品で性虐待という問題を扱うことになった本作。ダーンの演技は、英ガーディアン紙などで高く評価され、本年度エミー賞リミテッド・シリーズ部門主演女優賞にノミネートされた。

脇を固める俳優陣も大変豪華。ジェニーの母役にはエレン・バースティン。ダーンとは『アリスの恋』(’74)ぶりの共演となる。また恋人役に『ウォンテッド』や『スーサイド・スクワッド』などで知られ、アカデミー歌曲賞受賞歴を持つコモン。馬術講師役に『華麗なるギャツビー』、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』の仏女優エリザベス・デビッキなどが揃う。また昨年亡くなった『ホーム・アローン』の父親役で知られるジョン・ハードが出演している貴重な作品だ。

突如出てきた“物語”によってこじ開けられる過去の記憶。年上の男性との恋として綴られていたのは果たして恋愛物語なのか、それとも…。若き日の記憶は秘密にしたまま化石となり、思い出そうとした時には曖昧になっている。時にその曖昧さが自分を守る術のひとつになることもある。そんな記憶の曖昧さに逃げる姿勢に一石を投じる本作が“実話”というのだから驚きだ。しかも経験者自ら幼少期の体験を元に脚本を書き上げ、監督まで務めている。彼女の名は“ジェニファー・フォックス”。

いくら女優が演技をするといっても、自身の暗い過去を撮るのは辛いことのように感じられる。しかし仮名を使うことなく実名で制作に名を連ね、実名を役名に使用したことからも彼女の真っ向から挑む姿勢が感じられる。主人公の職業がドキュメンタリー作家であるという点もフォックス監督と同じ。21歳の頃から映画の自主制作を始めたというフォックス監督初めてのフィクションとなる本作は、もはや彼女自身のドキュメンタリーといっても過言ではない。エンドロールで映し出されるフォックス監督の若かりし頃の写真。“これが実話だった”と思いながら見ると色々と考えさせられる。

作中には未成年の性的描写が登場するが成人の代役で撮影が行われた。また本国の作品公式サイトでは性虐待の被害者、またはその知人に向けて情報を提供している。ただの娯楽作品を超え、本作が強い役割を担っていることがお分かり頂けるだろう。

13歳の頃に書いた日記程度の物語を母に発見されたことで、過去の記憶に直面することになったジェニー。本作では性虐待がひとつのテーマであるが、そのテーマを通して新たな問題が見えてくる。女性の生き方や家族の在り方だ。女性の生き方が変われば家族の在り方は変化し、家族の在り方が変われば女性の生き方も変化する。

本作に登場するジェニー世代とジェニー母世代を見てみよう。ジェニーの母は若くして結婚し男性経験は夫だけ。5人の子供を育てる専業主婦として登場する。一方ジェニーは、50歳目前で未婚。恋人はいるが共働きで子作りの予定もない。

かつて女性は家庭に入り、多くの子供を産むことが良いとされていた時代があった。まさにそうした時代に5人の子供を産んだジェニーの母だが、本作で描かれる生活を見ると、ひとりひとりに手をかけられないという実態があった。父はといえば家族を養うために働き詰め。そうした家庭環境が虐待の温床になっていたのではないか?と本作は疑問を投げかけてくる。

記憶に残っているものはなにかと綺麗に写るものだが、それが事実とは限らない。時に苦い思い出とも対面し、向き合う必要があるのかもしれない。性虐待に限らず“記憶”との向き合い方など、本作から学ぶことは多いはずだ。

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