自分の声が嫌いだ。「あまりしゃべらない方がいいよ。頭が悪そうに聞こえるから」と言われたこともある。番組を編集していて、収録素材にカメラ横でしゃべっている自分のだらしない声が聞こえたりすると最悪だ。
子供の頃から声にはコンプレックスがある。学級会の司会をしたり、人前で挨拶したりするのが大の苦手だった。そのせいで絵を描いて自分を表現しようとする癖になった気がする。大人になってもCMの企画プレゼンテーションは本当に不得意だ。『英国王のスピーチ』(’10)でコリン・ファース演じるジョージ6世の、吃音を治す苦労がよく分かる。チャーチル英国元首相も吃音症だったという台詞が出てくるが、ブルース・ウィリスもマリリン・モンローも吃音症だったそうだ。メリル・ストリープが今年のアカデミー賞に輝いた『マーガレット・サッチャー鉄の女の涙』(’11)の中にも、首相になるために発声法=エロキューションの訓練をするシーンがあった。
映画史に残る悪声と言えばMGMのミュージカル『雨に唄えば』(’52)。やはりアカデミー作品賞の『アーティスト』(’11)によく似た、サイレントからトーキーへの転換期のハリウッドを題材にしたもの。サイレント時代、人気におごった映画女優がトーキーになって悪声のせいで仕事がなくなる。彼女にいじめられていた主人公(ジーン・ケリー)らは、トーキーのおかげでハッピーエンドを迎える展開だった。声にコンプレックスのある私には「ずいぶんひどい話だなあ」というのが最初の感想。悪声の大女優を演じるジーン・ヘイゲンがとてもかわいそうな気がした。
ミュージカル『マイ・フェア・レディ』(’64)は花売り娘イライザ(オードリー・ヘプバーン)が話すロンドンの下町訛りを、レックス・ハリソン演じるヒギンズ教授が治すというもの。「訛り」は「だみ声」とも言うそうだ。『世界最速のインディアン』(’05)の主演アンソニー・ホプキンスのニュージーランド訛りや『ブラス!』(’96)でピート・ポスルスウェイトが話すヨークシャー訛りなど映画では訛りがキャラクター設定によく使われている。
松本清張には、ずばり「声」という電話交換嬢が殺人犯の声を聴いてしまう小説がある。『カンバセーション…盗聴…』(’73)の主人公(ジーン・ハックマン)は盗聴を仕事にしていて、男女の会話からある事件へ巻き込まれて行く。 以前ある外資系航空会社のCMを演出した。ナレーターはジーン・ハックマン。私はアメリカで録音された素材を選んで編集するだけの仕事だったが、テープに入っていたのはゲホゲホむせたり、読み間違えたりするNG集みたいなもの。やっとワン・テイクだけがOKだった。ジーン・ハックマンといえば、あのテープのひどい声を思い出してしまう。
上手にスラスラと話されると、心地良いけれど聴く方にはあまり残らない。CMなどでは特に癖のある声が求められる。しかし、悪声は、やはりいただけない。大したことを言っているわけではないのに、声で説得できてしまう。そんな声の人がうらやましい。










